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東京地方裁判所 平成7年(刑わ)2143号 判決 1996年3月19日

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

パッキーカード一枚(平成七年押第一八七六号の1)を没収する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、その使用度数が五〇〇〇円に改ざんされたものであることの情を知りながら、甲野レジャーカードシステム株式会社作成の有価証券であるパッキーカードを使用してパチンコ玉を窃取しようと企て、平成七年一〇月一三日午後二時八分ころ、乙山産業株式会社(代表取締役A)が経営する東京都杉並区《番地略》パチンコ店「丙川」において、同店舗内に設置されたパチンコ遊技機一一〇番台に取り付けてあるパチンコ玉貸機のカード挿入口に右カード一枚(平成七年押第一八七六号の1)を挿入し、もって、変造有価証券を行使するとともに、同玉貸機を操作して同店店長B管理に係るパチンコ玉五〇〇個(貸出価額合計二〇〇〇円相当)を窃取した。

(証拠)《略》

(事実認定の補足説明)

被告人は、本件パッキーカード一枚(平成七年押第一八七六号の1)は他の押収されたパッキーカード三六枚(同押号の2)と共に西武線椎名町駅近くの路上で拾ったものであり、盗品であるかもしれないとは思ったが、真正なものと思って使った旨、本件各犯行の故意を否認する供述をする。

そこで当裁判所の事実認定につき補足説明する。

一  関係各証拠によれば、次の各事実が認められる。

1  本件パッキーカード及びそれと併せて被告人が犯行時に携帯していたパッキーカード三六枚は、いずれも使用済みであることを示す箇所に穴が開いていて、これを塞いだものであり、このことは、パッキーカードの表面や裏面を見ることによって、容易に識別することができる形状となっている。

2  パッキーカード用パチンコ玉貸機の取り付けてあるパチンコ遊技機を使用してパチンコ遊技を行う客は、通常、パチンコ台を移る等の事情がない限り、玉貸機にパッキーカードを挿入したままでパチンコ遊技を行うのが通常であるところ、被告人は、本件各犯行の直前に、犯行場所のパチンコ店において遊技中、同一のパチンコ台でパチンコ遊技を行いながら、パッキーカードをパチンコ玉貸機に挿入してパチンコ玉を取り出しては、直ちにパッキーカードを引き出すという不審な動作を繰り返し行っていた。

3  本件各犯行の直後、パチンコ店の店員が、被告人の背後に接近し、その使用しているパチンコ玉貸機から本件パッキーカードを取り出し、その裏面を見て変造されたものであることを確認して声を掛けると、被告人は、直ちに店外への逃走を図った。

4  被告人は、現行犯逮捕後、パチンコ店内の事務所において、本件パッキーカードを示して問い詰められるや、店員に対し、所持していた真正なパッキーカードや現金を手に持ち、それらを差し出し、両手を合わせて許しを請うような動作をし、あるいは土下座するなどしている。

二  これに対し、被告人は、第一に、本件パッキーカードを拾った際、穴があいているかどうかよく見なかった、第二に、パッキーカードを入れたり出したりの動作はしていない、第三に、逃走を図ったのは、自分が不法滞在であること、日本語ができなかったこと、パッキーカードが盗難品であることが発覚したと思ったことによるなどと供述する。

しかしながら、第一の点について、被告人は、捜査段階では、パッキーカードに穴が開いていれば使えないことは知っていて、拾った当時に確認したが、穴が開いているようには見えなかったと供述していたものが、公判廷では、確認していない旨、合理的理由なく供述を変更した上、確認しなかった理由を問い詰められるや、パッキーカードは来日してから五、六枚使用したことがあるし、テレホンカードを使用したときにカードに穴があくことは知っていたとしながら、使用済みとなったパッキーカードにこれを示す穴が開くことは知らなかったなどと不合理な弁解をしており、右に関する被告人の供述を信用することはできない。

第二の点については、証人Cは、被告人の不審な動作に気付いてビデオカメラの拡大したモニター画面でも確認したなどと、捜査段階から一貫して具体的に供述しており、Dの供述もこれにそうものであって、これらは充分に信用することができ、これに反する被告人の供述は信用することができない。

第三の点については、被告人の主張する理由からすれば逃走を図るというのは不合理な行動である。もっとも、咄嗟の行動としては、必ずしも不自然な弁解と断定することはできないが、その後の事務所における被告人の行動(前記一4)と合わせると、不審な行動であることは否めない。

三  前記一の各事情を総合し、さらに、被告人が、前記二に指摘したような不合理な弁解あるいは事実に反する供述をしていることを考慮すると、被告人は、本件各犯行の際、本件パッキーカードが変造されたものであることを少なくとも未必的には知っていたものと推認され、この認定に反する被告人の供述は信用することができない。

(法令の適用)

罰条

変造有価証券を行使した点 刑法一六三条一項

パチンコ玉を窃取した点 刑法二三五条

科刑上一罪の処理 刑法五四条一項後段、一〇条(重い変造有価証券行使の罪の刑で処断)

刑の執行猶予 刑法二五条一項

没収 刑法一九条一項一号、二項本文

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(求刑 懲役一年六月、没収)

(裁判官 藤井敏明)

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